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文庫版 陰摩羅鬼の瑕 (講談社文庫)

文庫版 陰摩羅鬼の瑕 (講談社文庫)
京極 夏彦
文庫版 陰摩羅鬼の瑕 (講談社文庫)
定価: ¥ 1,260
販売価格: ¥ 1,260
人気ランキング: 35396位
おすすめ度:
発売日: 2006-09-16
発売元: 講談社
発送可能時期: 通常24時間以内に発送

月並みですが、喪失がテーマ。
月並みな言い方となりますが、「喪失」を扱ったテーマだと思う。
家族を失った由良伯爵。新婚初夜に生命を失った妻。
爵位を得られなかった元華族の伯父。妻を失った元刑事。
さらに言えば、拠り所となる世界を喪失した人々。

これまでの犯罪の背景にも、婚姻、家族、女性の自立、性差、信仰
といった、重要な精神の礎となる要素が破壊され崩壊する前に、
それを守るために、あるいは新しい何かを見出すために起こさざるを
得なかった行動があった。
その大いなる切欠は、敗戦であり、身分の変化であり、経済社会の変化
であり、戦後という全く新しい時代の到来なのであろう。
それ程、日本は大きく様変わりした。

戦後生まれにとって、戦後は明るく平等な世界だ。
しかし戦前に世界観を構築した人間にとって、戦後という時代を
受け入れるには相応の苦しみがあったに違いない。
世界観の再構築は、過去の世界を破壊してしまうおそれもある。
もし世界が破壊され過ぎれば、自己喪失=自己否定に直結する。

物語では、大叔父の胤篤がもっとも饒舌な人物であった。
幼い頃に他家に養子に出された彼にとって、華族という世界は
憧れと妬みを伴った世界の全てだったのだろう。
私達は彼の人間性を通じて「自分の識っている世界」というものの
矮小な利己性と曖昧な不確実性をつきつけられる。
同時に挙動不審な関口の不確定な認識こそ、正しい在り方なのでは
ないかとまで思ってしまう。認識の交差と逆転である。

事件は怖ろしくない、
しかし「自分の識っている世界」が間違っているかもしれない…
と胸の内に疑いが残ることこそ、この物語の真の怖ろしさだと思う。

シリーズ中最も
シリーズ中最も早くにトリック(?)がわかってしまいました。そこに行き着くまでのプロセスが楽しめるので問題ないのですが。
殆ど事件とは関係ないかの大作家と関口の邂逅シーンがよかった。
★3つにしましたがこれは京極堂シリーズでの相対評価です。

碩学ミステリーの代表格
2003年8月リリース。京極堂第8弾、1,203ページ。読んでいてだんだんミステリーの種明かしなんてどうでも良くなってくる。というのは既に碩学披露の部分で充分に内容が濃く、十二分に読むに値するからだ。本作も途中の儒教と林羅山に対する考察とハイデッガーとの比較の部分には唸ってしまった。最早この段階で読む価値は充分だった。よって種明かしなんて重要でもないな、と思うのだ。不思議なミステリーである。

何しろ日本人の根底にある考え方、というモノ自体が実際は羅山らによって見事に書き換えられ、勝手に修正されたモノである、というのは確かにその通りだと思う。だれも京極のように宗教世界に幅広い見識を持っていないので、仏教も神道も儒教も混ざろうが消されようが認識できないのだろう。そこが実は付け目で、不勉強な脳に誤った認識、あるいは原典とはかけ離れた認識を刷り込んでしまう。かくて中国や韓国の大陸の原典とは遙かにかけ離れた、それこそ宗教性すら逸したモノができあがる。それが井の中の蛙である僕らには全く意識されない。

それらはハイデッガーとナチス・ドイツの関係のように、例えば林羅山であれば徳川四代と結びつき、庶民のコントロールに最適なツールとなってしまう。それは既に学問ではなく、マインド・コントロールだ。閉じられた世界の統率のされ方、それが本作のテーマにも思える。凄い作品だ。



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